綿糸の最大の特徴は吸湿性であり、国内では高温多湿となる夏場を中心に需要が根強い。用途は主に衣料用(下着など)、産業用(インテリア用品など)、衣料用(包帯など)に大別される。

明治以降、国の政策によって綿布の生産が強化されたこともあり、昭和初期には輸出量が世界一となった。戦中には輸出が一時停止したが、戦後輸出が再開されるとまた世界一の水準へと返り咲いた。しかし近年では安価なアジア産綿糸の輸入攻勢に押される形で国内生産量は減少している。事業所の数も年々減っており、ピーク(昭和33年)の145社から、平成16年にはわずか51社と、3分の1近くにまで減少した。
綿糸の原料となる綿花は海外からの輸入に依存しており、日本は綿花の大半をオーストラリアとアメリカから仕入れている。これまで綿糸の価格は紡績会社の操業・在庫動向に左右されてきたが、綿製品の輸入割合が増えたため、紡績会社の動向による価格の変動は少なくなり、現在は衣料品の売上・輸入動向が注目されている。
日本の繊維産業は複雑な垂直構造で、近年の産業の構造改革に対応できなくなりつつある問題もあることからその見直しが急務といえる。また、多様化する消費者ニーズに対応するため多品種少量生産に力を入れるなど、紡績業界とアパレル業界が連携して商品開発の高速化・省力ができるシステムの構築も必要だ。
近年、輸入綿糸の増加で国産綿糸の価格は下落傾向にあったが、中国を中心としたアジア諸国の急激な需要増によって輸入量が減り需給状況が引き締まったため、価格が急騰している。上向いている景気を背景に衣料品の需要もようやく回復の兆しを見せ、来年の春物衣料向けに加工業者の買い付けが盛んに行われている。しかしシャツやデニムの生産に用いられる綿糸の価格上昇が衣料品の価格転嫁を引き起こせば、消費回復に水を差しかねないため、今後の綿糸価格動向に注目が集まる。